社会的投資収益率について - Social Value Japan|ソーシャル・バリュー・ジャパン

About SROI
社会的投資収益率について

SROIの発祥と発展

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    SROIの発祥

    SROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)は、1997年から1999年にかけて、米国RobertsEnterprise Development Fund(REDF)によって開発されました。REDFは、主に雇用創出に取り組む非営利組織や社会的企業に対し、資金提供と経営能力の向上をはかるキャパシティ・ビルディングの支援を行う中間支援組織です。REDFでは、支援先組織の活動のパフォーマンスに対する計量評価を行い、資金助成や支援活動の指標とするために、費用便益分析と財務分析のROI(Return On Investment)の概念を応用し、SROIのフレームワークを開発しました。
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    SROIの発展

    2000年代初頭、米国におけるSROI運用は収束的状況になりましたが、欧州においては英国のシンクタンクnew economics foundation(nef)や、オランダのScholten & Frassen等が継続的にSROIの研究や運用を行っていました。
    これら米国・欧州の研究者の国際的なコンソーシアムによる研究が行われ、REDFのフレームワークを元にしたSROIの運用ガイドラインが2003年、2006年に発行されました。また、2008年にはSROI Networkが、SROI実践者のネットワーク組織としてロンドンに設立され、2013年には世界20カ国以上からの700名を超えるメンバー組織となるなど、米国を超える広がりを見せています。
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    SROIの展開

    2009年以降には、CAN Breakthrough、Private Equity Foundation、Impetus Trustといった、民間企業からの資金で助成活動を行う英国の財団が、相次いでパイロットでのSROIレポートの導入を行っており、民間企業を中心とするドナーに向けた、計量指標での社会的事業の成果の発信のためのツールとしての関心が高まっています。
    欧州におけるSROIに関する取り組みにおいて、特に注目に値するのは英国政府によるSROIの運用基準確立に向けた関与です。2007年には英国政府とスコットランド政府がSROI Projectと呼ばれる3年間のプロジェクトを立ち上げ、SROIの手法確立と、財務プロキシーを含めた実践的な導入手法の標準化についての研究を行っています。その成果はSROIの運用ガイドライン「A Guide to Social Return on Investment」として、英国内閣府とSROI Networkの共同出版として2009年に発行されました。ガイドは、2012年に更新版が発行されています。

SROIの概要

事業への投資価値を、金銭的価値だけでなく、より広い価値の概念に基づき、評価や検証を行うためのフレームワークがSROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)です。この指標では、社会・環境・経済面の費用と便益とを以て様々な活動による社会的インパクトを評価し、その社会的価値を適切に評価することを目指しています。
SROIの計算式
社会的投資収益率(SROI値)は以下の式によって算出されます。
社会的収益率
(SROI値)
アウトカムの貨幣価値換算価額の合計
インプットの貨幣価値換算価額の合計
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    「アウトカムの貨幣価値換算価額」の例

    当該事業によって就労を実現した対象者が獲得した賃金、対象者の健康状態の改善による社会保障費や医療費の削減、税収の増加など
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    「インプットの貨幣価値換算価額」の例

    人件費等の事業経費、ボランティアの労働時間を価値換算した額など
SROIの特徴
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    社会的価値の貨幣価値化
    従来のままでは貨幣価値として捉えにくかった社会的価値についても、「代理指標」を用いて貨幣価値化することで、社会的価値を含めた形で事業のパフォーマンスを把握できるようになります。
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    ステークホルダーにもたらされた
    価値の可視化
    事業によって創出された価値について、事業の直接の対象者(例えばサービスの利用者)のみならず、事業に関わるステークホルダーにもたらされた価値についても明らかにします。これにより、事業がもたらした価値をより広く捉えることが可能になります。
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    参加型評価のフレームワーク
    SROIは分析の課程に事業の直接の対象者を中心としたステークホルダーを参画させることで、分析結果の妥当性を高めます。これにはまた、各ステークホルダーにおいて、結果に対する納得感を高めたり、事業の価値の再認識につなげる意味もあります。その結果として、出資者や協働事業者、そして事業スタッフらの更なる事業への貢献につながるなどの効果も期待できます。

SROI分析の7原則

SROI分析の原則として、以下の7つの原則を順守することが謳われています。
原則 詳細
1 ステークホルダーの関与
Involve stakeholders
スコープの決定、アウトカムの特定、財務プロキシの決定等の主要 なプロセスにステークホルダーが関与すること。
2 変化に対しての理解
Understand what changes
評価の対象となるアウトカム(社会的変化)を肯定的・否定的なものを含め、エビデンスを以って認識する
3 重要な物事を価値づける
Value the things that matter
評価の対象となるアウトカムに対して重要性の評価を行い、重要なもののみを評価の対象とする
4 重要な物事のみを評価の対象とする
Only include what is material
重要だとされたアウトカムが、関連性と重要性の観点から、マテリアリティがあるかどうかを検討する
5 過剰な主張をしない
Avoid overclaiming
過大にアウトカムを計上するのを回避する
6 透明性の担保
Be transparent
データの証憑について、その出典や根拠を明らかにする
7 結果の検証
Very the result
評価結果について、ステークホルダーにフィードバックを行い、妥当性の検証を行う
(出所)Nicholls et al 2012, p9 よりSocial Value Japan作成
これらの多くは会計原則からの借用ですが、特にステークホルダーの関与については、参加型評価としてのSROIの一つの特色ともなっています。
SROIが評価の対象とする社会的インパクトは、特に客観的な評価指標の設定や測定が難しいものも多く含まれ、その妥当性の担保には多くの議論の余地があります。SROIでは、複数の異なるステークホルダーの評価プロセスの関与をその原則に組み入れることにより、分析の結果を「社会的に共有された価値」とすることにより、その分析の妥当性の担保を図っています。

SROI分析の活用事例

活用事例(海外)
FRCグループ(社会的企業)
英国リバプールに拠点を置くFRCグループは、若年者や失業者に対して、中古家具のリサイクルや家具の製造・販売事業を通じた職業訓練・自立支援を行っています。若者や失業者が職業訓練として、回収された中古家具の解体や修理作業を行い、リサイクルされた中古家具をグループ会社のBulky Bob‘sを通じて販売しています。主な顧客は低所得層です。
FRCグループでは、若年者や失業者に対して仕事を提供するとともに、職業訓練の過程で実施している各種表彰やイべント等を通じて、若年者や失業者の職業意識(社会参画へのモチべーション、自己肯定感など)の向上も実現しています。
FRCグループは、この職業訓練・自立支援事業の社会的価値をSROIを用いて算出し、「ソーシャル・インパクト・レポート」として公開しています。
レポートによると、1ポンドの投資額に対して2.49ポンドの社会的成果を生み出したとのことです。職業訓練の修了者・就職者の割合、訓繍時の満足度などの代理指標を用いて貨幣価値換算しています。
参考:FRC Group(FRCグループウェブサイト)http://www.frcgroup.co.uk/