このセッションは2つの質問に答えるディスカッション形式で行われました。1つ目の質問「近代社会において奴隷制がないまたは児童労働がないというラベル付けをすることは社会的価値を最適化するための非効率的な手段なのか、あるいは社会的な不平等のリスクを高めるのか」という質問でした。Patrick Stoop氏は児童労働の有無に着目して議論を行うのではなく、子どもが傷ついていないことに着目するべきであると述べ、Joanne Meehan氏は西洋的な視点で作られたラベルがある限り構造的な問題に目が向けられにくい点も指摘しました。Marc Buckley氏は2人の点に加えて経済モデルを再構築する必要性を述べています。2つ目の質問は、「システムを変化させ、社会的価値を最大化させ、より持続可能な社会を導くために何ができるのか」という質問でした。安い製品には誰かがその代償を払っている点を強調しつつも、システムシフトの難しさや、システムを再思考する必要性などが活発に議論されました。そしてまとめとして、Joanne Meehan氏はサプライチェーンにおけるインパクトの情報をより公開することを企業に求める必要性を指摘しました。Patrick Stoop氏はサプライチェーンがパラダイムシフトを起こしポジティブなインパクトを起こすことの実現可能性を述べ、Marc Buckley氏は社会的価値の考え方は私達が変化する世の中と新しいモデルに適応する手助けになるだろうと述べました。
Chris Oestereich氏は循環型経済についての研究者であり、タイで様々な取り組みを研究しています。Julie Rijpens 氏は、OECDの取り組みとして、社会的・循環型経済のために様々なアクターをサポートし、データや分析など情報共有、協働を進めていることを紹介しました。Jirarot Pojanavaraphan氏は循環型ファッション企業の経営者で、リサイクルなどを通じた繊維製品の生産、販売に取り組んでいます。大量に出る古着のリサイクルのみならず、パイナップルやバナナなどの繊維を利用した製品を生産。生産過程においても再生可能エネルギーの利用や二酸化炭素の排出、水の使用量を削減し、環境負荷を減らしています。こうした取り組みは一企業によって実現できたものではなく、大学や地元の人々など様々な組織とのコラボレーションの上に成り立っているとし、パンデミック後、人々は生態系などに対する社会的なインパクトに対して目を向けるようになり、循環型経済は発展していくだろうと述べました。また、地球規模での環境破壊、気候変動は待ったなしの状態であり、私たち一人一人ができ得るすべてのことをやる必要があるという意見で一致しました。
モデレーターのMr Simon Faivelは、オーストラリア西部の砂漠地帯で暮らしている原住民Martuを支援する活動を行っています。独自の価値観、世界観をもつMartuは、KJと呼ばれる組織を形成し、意思決定を行っていることを紹介しました。
トルコでマイクロファイナンスを通じて女性たちの経済的な自立を促進する活動をしているMs Ceyda Ozgunは、活動の成果として、女性たちの間に社会的なネットワークが形成できたこと、夫の収入に依存せずに生活できるようになったこと、他者から尊敬されることで女性たちが自信をもって生きていけるようになったことを挙げました。
ニュージーランドでマオリ族の支援を行っているMs Awerangi Tamihereは、今まで社会的に虐げられてきたマオリ族の人たちが誇りを持てるようFamily Wellbeingプログラムを開始し、マオリ族の組織との協働を通じて、健康やWellbeingが向上したことを紹介しました。
ソーシャルバリューギリシャのMr Fotis Spiropoulosは平等な社会を目指して、ホームレスや難民支援を行っています。食事やシェルターなどを提供するだけでなく、ホームレスなどで構成される演劇チームを結成し活動をしています。また、障碍者難民に対して、スポーツ支援を行い、東京パラリンピックへの参加を果たしたことが紹介されました。
討論では、資金や長期的な変化、アイデンティティの課題について話し合われました。Ms Ceyda Ozgunからは、長期的な変化として、女性たちが属するコミュニティが解決策を見つけたり、お互いにサポートできたりしていることを挙げ、経済的な問題は社会や家族など他の問題を引き起こす原因になっていると説明しました。
Ms Awerangi Tamihereは現段階では目に見えるような成果が出ていないとしながらも、ニュージーランド政府関係の三つの組織が基金を設立して支援に乗り出している新しい動きを紹介しました。
モデレーターから、難民やホームレスのような人たちがどのようにコミュニティに入っていくのか質問され、Mr Fotis Spiropoulosは、演劇チームの活動を通じて、ホームレスの人たちが仲間を作り、自信を取り戻していったことを紹介しました。そして、食事、仕事、シェルターだけでは人は幸せになることはできない、友人や社会的な活動が必要と語りました。
本セッションでは、日本において社会的インパクト・マネジメントの普及を牽引する一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブが新たに発行した社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインver2の解説が行われました。このガイドラインにおいては、これまで混同されがちだった「評価」と「マネジメント」を改めて定義し直し、社会的インパクト評価によって得られた情報をいかに事業の促進、改善に生かすのかということが注目すべきアップデートのポイントだと紹介されました。