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2021.5.21
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【AVPN記事紹介】インドにおける企業の社会的責任に関する規制の枠組み改正
当法人ソーシャルバリュージャパン代表理事の伊藤 健が、East Asia Directorを務めております、Asian Venture Philanthropy Network(AVPN)がホームページにて紹介している、インドにおける企業の社会的責任に関する規制の枠組み改正についてご紹介させて頂きます。

概要

2021年1月22日、インド政府は、インドにおける企業の社会的責任(CSR)に関する規制の枠組みを変更しました[1] 。新しい規制においては、CSR活動の「責任」の領域に着目して、CSRにかかる費用のガバナンスと透明性を高めることを目的とし、コンプライアンス違反に対する金銭的な罰則制度が導入されました。また、CSRの情報開示を強化するとともに、管理費や、CSR資金から生じた剰余金、超過支出の年度繰越、資本資産の創出・取得など、CSRの様々な側面に関連する会計基準を明確にしました。

この枠組み改正により、企業は罰則を回避するため、自社のCSR関連の情報をすべて正確に把握する必要があります。そのためには内部管理情報システムを見直し、役員による決議を円滑に進めることが求められています。また、新規制では、事業実施後のインパクト評価を義務付けることから、より責任あるCSR事業の実施が期待されています。

日本でも今後、CSRへの関心やニーズが高まると同時に、CSR事業の透明性について法改正や罰則が課せられる可能性は少なくありません。そうした中で、CSR実施企業や行政機関は、CSR活動の社会的インパクト評価を実施し、定量的かつ定性的観点から本質的な社会課題改善や事業改善に従事する必要があると考えられます。

 

注釈[1]:The Government issued 3 notifications that amend the provisions of the Companies Act, 2013 and the Companies (Corporate Social Responsibility) Rules, 2014.

詳細

新規制では、コンプライアンス違反に対する金銭的な罰則制度が導入され、従来の「実名公表による制裁」という考え方から大きく変化しています。この記事では、新規制の主な変更点と、それらの変更点がCSRの会計に与える影響について簡単に紹介致します。

1.企業による戦略的かつ深い関与の必要性ついて

第一に、新規制では、企業の CSR 委員会がより強固な CSR 方針を策定し、自社のCSRの理念や、予想される支出、モニタリングの仕組みをより詳細に明示することが求められています。そして第二に、CSR委員会は、CSRプロジェクトの実施・モニタリングのスケジュールを図示した「行動計画」を策定する必要があります。企業は行動計画を遵守しなければならず、CSR委員会が必要に応じて、計画の修正を促すことになっています。第三に、CSRの会計に関わる、CFO(最高財務責任者)の認定要件が設定され、経営層による積極的な関与の重要性が改めて強調されました。

2.透明性のある事業実施について

新規制では、非営利団体と企業投資家の双方に焦点を当てています。

 

  • ・2021年4月1日より、CSRの実施機関は、企業省に登録する必要が有り、CSRに関するすべての情報開示書類に共通して記載される、固有のCSR登録番号を取得することが義務づけられています。さらに、このような機関は、所得税法上の免除権利に関連して、有効な既存の所得税登録(1961年所得税法第12A条および80G条に基づく)を有していなければなりません。関連分野の活動において少なくとも3年間の実績を持つという既存の要件と相まって、この新規制は、善意のNGOだけがCSR資金の受領者であり、それゆえにプロジェクトの誠実な実施者であることを確実にすることを目的としています。
  • ・一方、大企業(過去3会計年度の平均支出額が1億ルピー)は、大規模なプロジェクト(過去1年間に予算1000万ルピー以上で完了したプロジェクト)について、独立した機関によるインパクト評価の実施が義務付けられており、評価報告書を年次報告の中で開示することが求められています。このように、このインパクト評価の義務化により、プロジェクト終了後も企業の関与が継続されることになります。したがって、企業は、大規模なプロジェクトにどのようなインパクトを求めるかという事や、実施機関の能力、インパクトの測定指標などについて、より慎重に検討する必要があります。これはまた、市民社会組織や一般市民から、より厳しい評価を受ける事を意味します。

3.CSRの余剰資金の分離について

新規制では、企業は、指定された期限内にCSRの余剰資金を以下の口座に振り込む必要があります。(a)未使用の資金が、現在継続中のプロジェクトに関連している場合は、別の銀行口座(未使用の CSR 口座)に振り込み、次の 3 会計年度以内に、対象となるプロジェクトに使用する必要があります。もしくは、(b)会社法付則7で指定されたファンド(PM CARESファンド、災害管理ファンド等)へ振り込まなければなりません。このように、CSRの余剰資金は確実に追跡可能であり、企業の他のすべての資金とは切り離されているため、CSR費用のアカウンタビリティーを高めることができます。因みにこれまでは、余剰資金については、CSR資金の全額を支出しない理由とともに、年次会社報告書内で開示されていただけでした。

4.コンプライアンス違反に対する罰則について

新規制では、CSR 費用や、上記3で述べた、未使用の CSR 口座または会社法付則7で指定されたファンド(該当する場合)への振込に関する規定を遵守しなかった場合、会社と役員全員に対して、金銭的な罰則制度を導入する事になりました。不履行の企業は、1,000万ルピー、あるいは、未使用のCSR口座または会社法付則7で指定されたファンドに振り込まれるべきだった金額の2倍の金額、いずれか少ない額の責任を負うことになります。さらに、不履行の役員は、20万ルピー、あるいは、未使用の CSR 口座または会社法付則7で指定されたファンドに振り込まれるべきだった金額の10分の1の金額の、いずれか少ない方の責任を負わなければなりません。

※Asian Venture Philanthropy Network(AVPN)とは

Asian Venture Philanthropy Network(AVPN)は、シンガポールに本部を置く、資金提供者の独自のネットワークであり、アジア太平洋地域における金融的・人的・知的資本のソーシャルセクターへの流れを加速することを目的として設立されました。

 

※本件の元の記事は、こちらのAVPNホームページにてご確認下さい:

The New Indian CSR Regime: 4 Key Changes You Should Know

https://avpn.asia/blog/the-new-indian-csr-regime-4-key-changes-you-should-know/#_ftn1