National Innovation Agency of ThailandのExecutive DirectorであるDr. Pun-Arj Chairatanaは、近年のイノベーションは、1950~1990年代の製品の生産におけるイノベーションや1990~2010年代のサービスにおけるイノベーションとは違い、社会的価値におけるイノベーションだと語りました。また、コロナ禍により、リモートワークや食料品のデリバリー等、社会的活動でのイノベーションが起こっていますが、貧困層にとってはアクセスしづらい分野であるという点や、公共セクターの政策立案等において更なるイノベーションが必要であると指摘しました。更に、社会的価値におけるイノベーションは、①ビジネスモデル、②地域に根差した事業、③社会性、④データの活用、⑤パラダイム、⑥審美性、⑦行政機関の、7つの領域でのイノベーションが必要だと述べ、それらを象徴する、近年のタイのイノベーションプロジェクトについて紹介しました。
次にExecutive Director of EselaのMs. Sarah Dobsonは、以下の3つの事項を強調しました。①グローバルな変化に即した、法律・政策の枠組み形成のサポートやリサーチの重要性、②社会的企業向けに、社会的価値における法律文書を整備する事への期待、③全ての企業に対する最低必要基準を上げ、社会的インパクトに関する基準も加える事へのニーズの高まり。また、こうした点に実際に取り組む国が、他の国の手本となっていく事を願っていると述べました。
続いて、Wellbeing Policy GuideのMs. Amanda Janooは、政策の作成方法やコツについてのガイドとしてWellbeing Policy Guideの概要を紹介するともとに、社会的インパクトをもたらす政策の重要性について強調しました。
また、Social Value UKのCEO、Ms. Isabelle Parasramは、政策立案やデザイン構築において、いかに民衆の声なき声を取り入れられるかについて語りました。例として、英国の市民議会の事例を挙げ、そこでは様々な分野の人々が参加可能で、彼らの声を、地方政府や国の政策に反映させていると述べました。また、今後の目標として、ステークホルダーが確実に政策を策定できるように、世界中の政府をサポートするためのガイダンスを作成したいと語りました。加えて、現状として、社会的なニーズや価値を示す指標は数多くありますが、ローカルレベルでの人々のニーズを理解したものを創りたいと述べました。また、企業に対して社会的・環境的価値の会計処理を義務化するよう、Social Value UKとして働きかけていきたいと語りました。
Senior Policy AdvisorのMs. Samantha Butlerは、2021年1月から施行されている、英国政府による社会的価値の活用政策に触れ、さらに、コロナ禍からの回復や、経済的格差問題の解決を優先するなど、様々な社会的価値における優先順位を付ける事の重要性についても語りました。
モデレーターのMark Gough氏は、価値会計(Value Accounting)のネットワークが世界的に広がりつつあることに触れ、現在は財務会計が中心になっているが、2025年には価値会計が意思決定の中心に位置づけられていくと主張。ビジネス界、金融界、政府が関連を深めていくシステム的な解決が必要であるとしました。NPO「Shift」のCaroline Rees氏は生活賃金(生活維持に必要な最低限の賃金)という概念を紹介。今まで雇用はP/Lを押し下げる要因としてだけ捉えられ、B/S上の資産としてみなされることはなかったこと、また生活賃金の充実はSDGsの様々な項目に影響を与える重要な要素であると述べました。Andrew Watson氏の資本の再検討では、現状の会計実務は不合理的であり、無形資産が私たちの生活に影響があるほど拡大しているのに、その価値を認識しきれていないと指摘。真に価値のあるものを財務的な価値として認識する必要性を述べました。Chanathip Pharino氏は、ブルーエコノミーの概念から海洋産業は人々の生活に非常に大きな影響があるのにも関わらず、環境的な価値、未来の価値に関して過小評価されており、こうした価値を共通の認識とするべきだと述べました。Rob Zochowski氏はハーバードビジネススクールで進めているインパクト加重会計について紹介。財務的な要素だけでなく、社会や環境といった要素も会計に取り入れる必要性を主張。価値の数値化という面には課題が残ってはいるものの、新たな判断材料を投資家に与えることができるとしました。
Rayne van den Berg氏がCFOを務めるForce Pty Limitedでは、自然資本に関する報告書を発行しました。これまで経済的な指標で財務報告に、新たな価値として自然資本の概念を盛り込み、気候変動などの環境への影響を測り、評価し、公開するという取り組みが報告されました。(レポートはこちら)Tony Rowan氏は、FRCグループでは、家具の貧困(Furniture Poverty)削減に取り組んでおり、危機的な状況にある家庭に家具を届ける活動などを行っていることを報告しました。当社では社会的な価値を測るサブ委員会を設置、経営陣の意思決定に影響を与えている他、年次報告では財務だけでなく社会的インパクトについても報告を行っています。
Somphon Chitphenthom 氏は、TRISでは、評価モデルやプロセスの評価クライテリアなどを使って、公的セクターの経済的・社会的インパクトなどの評価を行っており、全社として持続可能性やCSRを推し進めていると取り組みの例としてオーガニックファーミングや持続可能な電化を通じた農民の所得向上などが紹介されました。
B-LabのCharmian Love氏は会計が今後地球規模の問題に果たす役割に大きく期待しています。B-Labが運営するBコーポレーションは環境や社会に配慮しているかどうかの厳しい基準の認証制度ですが、企業がこうした認証制度を利用することで環境や社会へのインパクトをビジネスモデルに組み込むことができ、ビジネスにおいてもポジティブなインパクトをもたらすとしています。
各発表の後、経営陣の中に環境社会的な配慮に対して懐疑的なメンバーがいる場合の具体的な解決策について討論され、すべての情報を共有し対話をもつことやプロジェクトを始める前に的確な指標やマイルストーンを共有することが重要だなどの意見が出ました。
AVPNのCOO、Mr. Kevin Teo は、アジアにおける3つの傾向について述べました。まず1つ目の傾向は、フィランソロピーにおいて、受益者の声をより大事にする組織が増えているという事。2つ目の傾向は、財務的リターンと社会的価値の両方を考慮する社会的投資が増えているという事。そして3つ目の傾向は、ESG投資において、サステイナブル・レポートや、SDG Impactのように企業のための指標や評価システムの活用が進んでいる事だと説明しました。また、フィランソロピーやESG投資などの社会的活動は、今までは西洋から学んできたが、今後はアジアの情勢に基づいた独自の仕組みも創るべきだと語りました。
また、Social Value TaiwanのExecutive Director、Dr. Chien-wen Mark Shenは、Social Value Taiwanが従事している、台湾の大学の社会的プロジェクトを例に挙げ、ステークホルダーの特定の仕方や、データの取り方、地域のNPOの活動がもたらす社会的インパクトの測定方法等について、大学生にアドバイスした活動に触れました。更に、Social Value Taiwanは、複数の企業や団体に対し、社会的価値の分析やレポート方法についてのトレーニングや、社会的企業向けのガイダンスを提供しており、社会的価値・SROIの認定プラクティショナーや報告書の活用が増えていると述べました。また、対象の企業や団体に対して、SROIを学ぶだけではなく、それを実際の事業に反映し、改善していくコミットが重要であるとアドバイスしている事にも触れました。次に、台湾のThe Yunus Social Business Centre (YSBC)の活動について紹介し、こうした社会的インパクトマネジメントの啓蒙活動の必要性についても強調しました。
また、DOMIのCo-Founder & Chief Gardener、Mr. Corey Lienは、脱炭素化のために活動する、アジア各国の活動家によるネットワークの活動について触れ、各国や企業の知恵を集結して行動する事の重要性を語りました。また、それらの活動を続けていくためには、社会的インパクトを測る事が大事だと述べました。
セメント、コンクリート業を行うSCGのChana Poomee氏は、SCGが低炭素エコノミーを掲げ、テクノロジーを駆使し二酸化炭素排出量を抑制し、2050年にはネットゼロの実現を目指していると述べました。また、本業以外でも、村落や海洋において行っている生態系を守る活動を紹介しました。Sirikul Laukaikul博士は持続可能なビジネスを推進するために行っているサステナブルブランド(SB)を紹介。企業の持続性を分析し、直接経営層とつながり、持続可能性を高めるための提案を行っています。こうしたブランディングは企業に社会的価値の創出のインセンティブを与えるのはもちろん、社会的な価値を重視する文化を企業の中に醸成することができるとしています。Chia-Yuan Wu氏は台北を中心に普及している、交通プリペイドカードEasy Cardを紹介。Easy Cardは、電車、地下鉄、バスだけでなく高速鉄道や自転車でも使うことができ、大気汚染の抑制に寄与するほか、低所得者に対しても移動を可能にし、社会的な価値を向上につながっていると述べました。
モデレーターAndrew Beirne氏は、企業がネットゼロに取り組む重要性を主張するとともに企業にとってもネットゼロに取り組む理由が十分にあると述べました。その理由とは①企業のステークホールダーが経済的な利益だけでなく、持続性に価値を置き始めたこと②気候変動によって引き起こされる自然災害は企業活動においても大きなリスクとなること③電気自動車や再生可能エネルギーなどの新たな分野への投資は企業にとってチャンスとなりえること。討論では、企業がどのように持続可能性へのシフトをするのかが話し合われ様々な意見が出ました。Chana Poomee氏は、農業廃棄物のバイオマス発電などによりコスト削減を実現できたことに触れ、SDGsに取り組むことと経済的な利益が相反しないこと、また、パンデミックや気候変動の問題が認識されてきたことはSDGsへコミットする大きなきっかけになったと述べました。また、Wu氏は再生紙の利用、充電池ステーションの設置やシェアサイクルの例に、政府主導の規制や目標設定も大きな影響があると述べました。Sirikul Laukaikul博士は企業だけでなく個人のマインドセットを変えることが重要で、人々が謙虚な心をもち、「十分」を知ることが大切と述べました。
インパクトウォッシングとは、グリーンウォッシング(企業などが自社のイメージアップなどのために環境保護に熱心であるように装うこと)と同じように、それほど社会的なインパクトがないにも関わらず、社会的な価値を生み出すことに積極的であるかのような情報を公開したり、イメージを作り上げたりすることで、近年問題となっています。どうしたら、こうした問題を減らしていくことができるのか討論が行われました。インパクトウォッシングのリスクとして、投資家が誤った情報によって意思決定をしてしまうことに危機感をもっています。
このセッションではデジタル技術を通して社会問題の解決を図る、さまざまな取り組みが紹介されました。Ms. Shanti Raghavanは障害者の就労を促進するEnAble Indiaの取り組みを紹介。デジタルデータを分析し、企業が障害者の雇用を阻害する要因などを分析し、解決へと導いています。例えば、障碍者の就労機会地図を作成し、障碍者が自分で仕事を見つける手助けとなっています。またこうした就労者には、比較的高い給与が与えられ家計を支えるだけでなく、障碍者自身のやりがいなどにつながっています。
社会的金融プロジェクトを手掛けるShanzhai Cityは、貧困問題や社会的排除の問題に取り組み、香港、中国、南アジアなどで活動しています。データの活用やブロックチェーンの技術を駆使し、金融包摂を目指しています。
社会的企業のChange Fusionはインキュベーションプロジェクトを行っています。台湾のオープンソースモデルを参考に、フェイクニュースの広がりを分析し、拡散を止める活動や、AIを使ってDV(家庭内暴力)の発生予測をリスクマップとしてまとめ、警察や病院などと共有するなどの活動を行っています。
討論ではデータの取り扱いなどについて様々な意見が出ました。例えば、デジタルなインフラの整備には、技術や資金もさることながら、人々のシステムへの信頼が最も重要であること。データは貴重な資源であり、図書館のように多くの人に公開するもの、一定のグループ内で共有するもの、機密として絶対に漏洩しないものに的確に分類し利用していくことが大切であること。以前は、貧困と言えば非識字であったが、これからはデータをいかに理解し利用するのかという知識が要であり、貧困層のキャパシティビルディングがますます重要になってくるなどの意見が出ました。
第二日目以降のサマリー記事は、「2021年10月21日開催分①」として次回ご紹介致します。